公益財団法人金子国際文化交流財団、アジア、奨学金、

留学生の研究内容の紹介

奨学生の研究内容の紹介について

本財団では留学生が研究・勉学に専念できるよう、奨学金という形で応援しております。この「奨学生の研究内容の紹介」ページでは本財団の奨学金を受けた方のうち、大学院博士後期課程在学中あるいは博士号を取得された方の研究内容を紹介しております。

 以下、タクル・テジュ・ナラヤンさん(埼玉大学大学院)、ワン・ヤルさん(千葉大学大学院)、シャ・ギョウブンさん(東洋大学大学院)、リー・カシンさん(早稲田大学大学院)、チョウ・ブンクンさん(一橋大学大学院)、タン・テンヨウさん(一橋大学大学院)、リ・ジュウさん(立教大学大学院)、パン・ユエさん(千葉大学大学院)、チョウ・リリさん(早稲田大学大学院)の研究内容をご紹介いたします。
 掲載期間は約1年間の予定です。

以下、寄稿時の所属でご紹介しております。

タクル テジュ ナラヤンさんの研究内容の紹介  2021.9月

モバイルバンキングシステムにおけるモデル検査に関する研究

タクル テジュ ナラヤンさん令和3年度(2021年度)奨学生

タクル テジュ ナラヤンさん

埼玉大学大学院理工学研究科

博士後期課程3年

(2021.8月現在)

 私の研究はモバイルバンキングについてです。E-バンキングは、モバイルバンキングシステム、インターネットバンキングシステム、ATM、テレフォンバンキングシステムなどのネットワークやコンピュータシステムを利用してバンキングサービスおよび商品を提供する。モバイルバンキングには、リアルタイム性や常時アクセスなどといった利点がある。よって、モバイルバンキングの使用は世界的に拡大しつつある。しかし、モバイルバンキングの主な問題は、プライバシーの侵害、取引・運用におけるセキュリティのリスクである。フィッシング、ルートキット、中間者攻撃、ハッキング、ランサムウェア、ボットネットなどはセキュリティリスクの例である.
 モバイルバンキングを含むソフトウェアシステムの信頼性を向上させる方法の一つとして、ソフトウェアのモデル検査がある。モデル検査ツールの一つに、SPIN(Simple Promela INterpreter)がある。SPINでは、プロセスメタ言語(PROMELA)によりソフトウェアのモデルを記述し、ソフトウェアに求められる要件を線形時間論理(LTL)で記述する。本研究の目的は、安全性と信頼性などセキュリティに関する要件を検査するためのモバイルバンキングシステムのモデルを開発すること、そして、そのモデルを用いた検査である。
 私はモバイルバンキングの新しいE-チェックを導入して安全なモデルをつくって検証をしました。そして、フィッシング攻撃の解決のため新しいモデルをつくって検証をしました。
もっと安全なモバイルバンキングのモデルのため研究をしています。デジタル時代に入り、私たちの研究の結果日本、ネパールとせかいのみんなの安全な良いコミュニケーションのため役に立つなると思います。奨学金 をいただいてどうもありがとうございました。

 

(事務局 奥沢文子) モバイルバンキングの進化は激しく、年齢が高いほど使いこなせていないと思います。ソフトウェアシステムへの信頼性も年齢が高いほど懐疑的な印象を持つ人が多いのではないでしょうか。誰でも使いやすく、確実で安全で簡単なモバイルバンキングを確立してほしいものです。

 

ワン ヤルさんの研究内容の紹介 2021.9月

視聴覚刺激について時間的再較正に影響を及ぼす処理過程の検討

ワンヤルさん令和3年度(2021年度)奨学生

ワン ヤルさん

千葉大学大学院融合理工学府

博士後期課程2年

(2021.8月現在)

 遠くで花火とそれに伴う音を知覚するときに顕著であるように,光と音の物理的な伝達速度は等しくない。視覚刺激(光)と聴覚刺激(音)は,受容器(目と耳)で入力を受けてから感覚中枢に到達するまでの神経伝達速度も異なる。多感覚刺激の呈示タイミングを同時であると知覚するためには伝達速度の差異を補正して知覚するメカニズムが必要であることが示唆される。時間的再較正とは,視聴覚刺激を一定の時間差で繰り返し提示すると,視聴覚刺激間の時間差が短く感じられるようになる順応的変化のことである。多くの先行研究では、短い提示時間の視聴覚刺激の間に時間差が設け,時間的再較正が生じることを示してきた。しかしながら,時間的再較正の効果が,どのように視聴覚刺激のオフセットの順序判断に影響を与えるかについては不明である。
 本研究では,視聴覚刺激のオンセットとオフセットが知覚的に弁別できるほど長い刺激に関して,視聴覚刺激のオンセット及びオフセットの非同期に対する時間的再較正の特性について検討した。視聴覚刺激のオンセット及びオフセットの聴覚刺激が先行した条件のみ時間的再較正が生じることを見出した。また,視聴覚刺激のオフセットに時間差を順応し、オンセットに対して判断させた場合,視聴覚刺激に時間的再較正は生じず,聴覚時間的再較正は視聴覚刺激の同一の刺激部位間でのみ生じることが示唆された。
 今年の4月から金子国際文化交流財団の奨学金をいただいている。昨年からコロナが広がっており、私の生活や勉強にも影響が出ている。 コロナが蔓延していたため、直接会うことはできないが、財団からいつもメールが届き、温かさを感じ、一人で頑張っているという孤独を感じなくなった。 また、財団の支援のおかげで、アルバイトを増やすことなく、研究に時間を使うことができた。この度は、奨学生に選ばれたことを心より感謝申し上げる。

 

(事務局 奥沢文子) 確かに音と光の伝達速度に違いがあることはわかります。しかし、音と光の刺激を受けてから体の中での神経伝達速度にも違いがあるとは知りませんでした。人体の不思議を解明してくれる研究者の存在を頼もしく嬉しく思います。

 

シャ ギョウブンさんの研究内容の紹介  2021.9月

コンテンツ産業の構造と競争優位 〜中国と日本の比較研究を中心に〜

シャギョウブンさん令和3年度(2021年度)奨学生

謝暁?(シャ ギョウブン)さん

東洋大学大学院経営学研究科

経営学・マーケティング専攻

博士後期課程1年

(2021.8月現在)

 コンテンツ産業は、情報を扱う知識集約型産業であり、デジタル化・ネットワーク化された未来の世界において競争優位をもたらしている。世界各国においては、コンテンツ産業が重要視され、文化・産業支援策が次々と策定されている。インターネットに大きく依存するコンテンツ産業における海外連携開発や海外販売活動は従来の製造業よりも柔軟性を持っている。本研究はコンテンツ産業の独特な構造や特徴を明らかにする上、中国と日本を対象とする国際比較研究を行うと考える。先発国と後発国との異なる産業構造と特徴は、異なる競争優位をもたらすかどうか、そしてその原因を探り出したいと考えている。
 グローバリゼーションに伴う各国間の交流と貿易が強化され、各国間の競争が一層激しくなっているなか、コンテンツ産業において、海外他国との協力と競争が激化され、多国籍化傾向が強くなるのも予想される。多国籍化傾向によって、先後発国の境界線が曖昧になり、コンテンツ産業は全体的にグローバル化されると考えられる。その全体像を明晰に描き出すことが本研究の意義である。
 博士1年の春学期の研究は、主に背景調査を行い、事実背景から問題意識を再考した。世界全体そして日中韓のコンテンツ産業の現状を対象として調査した。世界のコンテンツ産業は勢いよく成長し続け、コンテンツ製品の海外進出も活発している。それに対して、日本のコンテンツ産業の成長が鈍化し、海外進出活動も十分に重視されていないことが明らかになった。
 2021年の春、私は博士後期課程へ進学し、財団の奨学生として採用された。財団のご支援のおかけで、研究活動に専念することが出来るようになった。コロナ禍で不安を感じているが、財団からの温かい励ましのお言葉には、いつも元気づけられている。財団のご期待に添えるよう、今後もより一層研究に励みたいと思っている。

 

(事務局 奥沢文子) 世界のコンテンツ産業は成長しているのに日本のコンテンツ産業の成長は鈍化していることに日本の将来を憂います。情報産業の拡大していく未来を誰もが予想している現在、日本の成長鈍化の理由を解明してほしいと思いました。

 

リー カシンさんの研究内容の紹介  2021.9月

スペクタクルとしてのレズビアンイズム:現代大衆映画におけるパフォーマンス、感情表現、同性愛の内面性

リーカシンさん令和3年度(2021年度)奨学生

李嘉倩(リー カシン)さん

早稲田大学大学院

国際コミュニケーション研究科

視覚文化論 博士後期課程1年

(2021.8月現在)

 近年、レズビアンが主人公となっている映画は増えている。レズビアン映画が大作/商業映画となっている原因の一つはレズビアンの役を演じるスター女優にあると予想される。より多くのスター女優たちが、役者だけでなく、監督やプロデューサーの仕事も務め始めていた。こういった幅広く活躍している女優たちが、映画表象の構成要素の一つを越え、制作側の立ち位置でレズビアン映画に関わり、このジャンルを根本的に変えていく。本研究では、従来の映画でのレズビアン像およびスター理論の言説的文脈を捉えつつ、レズビアン映画研究の現状を把握し、大作のレズビアン映画の質的テキスト分析を行う。そして、分析対象としているレズビアン映画における観客反応の構造を検討するつもりである。
 本研究の独創性については、レズビアン映画、スター理論、認知的映画理論をまとめて検討することである。レズビアン映画研究は、レズビアンの表象またはキャラクターの(不)可視性と(不)可読性についての議論において、物語構造、場所、ミザンセーヌ(演出)、ショット、編集、または他の表現力豊かな要素を中心として議論する。スター理論は、特定のスター役者を、並外れた個々の人物と見なし、それぞれを別々のカテゴリーとして研究する傾向がある一方で、認知的映画理論は、主に映画技術に焦点を当てており、基本的な知覚・認知能力を持つ観客が想定されている。本研究は、スター役者が出演するレズビアン映画とスター役者のないレズビアン映画との比較を通じて、映画でのレズビアン像の変転を探り、スター役者・観客・(同性愛)セクシュアリティ・感情表現の間の論理的関係をつかまえる。
 この春学期(2021年)には、前述の三つの理論に関する先行研究を調べ、関連学者および研究を取り上げ、思考や研究の枠組みを作った。コロナ禍の中で研究を進めるのは決して簡単ではないが、金子国際文化交流財団の奨学金をいただくことで、研究に集中でき、経済的・精神的負担が軽くなった。ご支援をくださった財団の方々に心よりお礼を申し上げたいと思う。

 

(事務局 奥沢文子) 確かに近年、社会的に同性愛への忌避感は減少していると思います。忌避感が減少したからそのような作品が増えたのか、そのような作品が多く輩出されたので忌避感が減少したのかはわかりません。差別のない、いろいろな人が暮らしやすい世の中であってほしいし、この研究がその一助となること願っています。

 

チョウ ブンクンさんの研究内容の紹介 2021.4月

中国における親子間の教育達成の因果関係

趙文君さん写真令和元年度(2019年度)奨学生

趙文君(チョウ ブンクン)さん

一橋大学大学院経済学研究科

博士後期課程3年

(2021.4月現在)

 親の学歴と子の学歴の間には一定の相関関係があることが分かった。親の教育水準が子の教育水準に影響を与えるメカニズムについては2つの有力な仮説がある。一つは、遺伝説である。つまり、親の生まれつき能力が子に遺伝して、それを通じて親の教育水準が子の教育水準に影響を与える。もう一つは、環境説である。つまり、親の教育水準の高さが子が学ぶのに適切な環境を作り、その環境が子の教育水準に影響を与える。このことは、親の教育水準から子の教育水準への因果関係があると言われている。
   親の教育水準が子の教育水準に影響を与えるメカニズムはどのようなものだろうか。遺伝説であるか、それとも、環境であるか。この2つを区別することは、政策的な含意を考えるうえで重要である。仮に親子間の教育達成の相関が遺伝によるものであれば、政策が介入できる余地は小さいであろうが、環境によるものであれば、政策介入によって適切な環境を整えることができれば、親の教育水準が低くても子の教育水準を引きあげることが可能になるためである。そのうえ、教育水準を引き上げれば、次の世代の教育水準を引き上げ、教育及び所得格差を是正できるスピルオーバー効果がある。
 中国の先行研究では、親と子の教育水準の相関関係の研究は多いが、因果関係を識別する研究は少ない。双生児研究では、親子間の教育達成の相関は、因果関係ではなく、主に生まれつき能力の遺伝によるものだという結論を得ている。一方、中国の文化大革命や義務教育の改革などの自然実験を利用して、因果関係が実証されている。因果関係の研究の結果が異なっている理由は、分析の仮定によるものである。私の研究は、信頼できる弱い仮定では部分識別を利用して、中国における親と子の教育水準の因果関係を実証するものである。

 

(事務局 奥沢文子) 確かに親の教育水準が高ければ子へ与える教育も高いものになりますし、良識のある親ならば子には自分たちと同程度以上の教育を望みますものね。経済学は色々な価値をめぐる人間関係や社会の諸側面を研究するものなのだと理解しました。

 

タン テンヨウさんの研究内容の紹介 2021.4月

拡大集中許諾に関する比較研究

譚天陽さん写真令和2年度(2020年度)奨学生

譚天陽(タン テンヨウ)さん

一橋大学大学院法学研究科

博士後期課程3年

(2021.4月現在)

 デジタル時代に入り、著作物へのアクセス手段が多様化するとともに、著作物の複製及び伝達も容易となり、その結果、著作権侵害が多発している。これに対処するには、著作物の利用許諾及び使用料の徴収といった著作権管理が必要となるが、著作権者による著作物の個別管理が困難である。そのため、著作権者の代わりに著作物を管理し、著作権侵害を監視する集中管理制度が重要となる。集中管理制度は効率良く利用許諾の手続を可能にするものであるが、集中管理団体に管理されていない著作物を利用するために、利用者は依然として権利者から個別に許諾を求めないといけないという問題がある。そこで、著作物の利用を円滑にすることを目的とし、権利者から個別に許諾を得ずに著作物を利用できる集中管理制度の一種特殊な形となる拡大集中許諾制度が誕生した。
 同制度は1960年代の北欧諸国に起源し、今日に至って、イギリスを含む欧州の主要先進国が多数導入した。更に、2019年に発効した欧州指令も同制度のEU全域への適用に法的根拠を提供した。日本と中国は既に集中管理制度を導入しており、その代表例が日本のJASRACと中国のMCSCである。日中両国は現在、拡大集中許諾制度の導入について、立法を検討している。先行研究のほとんどは、北欧における現状調査を中心としており、立法論まで踏み入るものが少ない。
 本研究は、北欧諸国ないしEU全域における拡大集中許諾制度の立法経緯と関連裁判例の分析を通じ、同制度運用上の利点と問題点を探る。その上、日中両国における集中管理関連制度の現状及び問題点を分析する。分析の結果に基づき、拡大集中許諾制度の導入について、比較法の視点から、著作物の利用の円滑化及び効率化を図ることを目的とする著作権集中管理制度の再構築について、検討を行う。

 

(事務局 奥沢文子) 以前の中国では著作権を無視するケースが多々見られました。かなり減少してきたようですが、お互いの利となるような制度であってほしいものです。

 

リ ジュウさんの研究内容の紹介 2021.4月

国際移動時代における在日中国人女性就労者の
アイデンティティの構築:高学歴者を中心として

リジュウさん写真令和2年度(2020年度)奨学生
李重(リ ジュウ)さん

立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科

博士後期課程2年

(2021.4月現在)

 現在、男性の随伴者としてではなく、留学や就労などの目的で主体的な意思決定によって日本への移動を行っている中国人女性が数多くなっている。外国人、女性、就労者など複数のアイデンティティを持っている彼女たちは、職場において、自我を保つために、複数のアイデンティティの間の溝を埋める妥協点を探らなければいけない。男性中心の日本社会において、声が聞こえにくい中国人女性就労者の内面的世界に着目し、その自分像の構築を明らかにする必要があると考えられる。そのため、在日中国人高学歴女性就労者のアイデンティティが国際移動とともに、構築されているプロセスについて、質的研究により把握し、日本企業で働く中国人高学歴女性の実像に迫りたい。従来の量的研究により行われた在日外国人就労者の異文化摩擦や困難点に関する研究と異なり、移動者の主観に踏み込んだ質的研究である本研究は、当事者の日本における就労に関する意味づけ、摩擦に対する解釈などを明らかにすることができる。
 博士課程1年の春学期には、日中のジェンダー観に関する資料を調べ、考察を行った。秋学期には、アイデンティティに関する論文を整理し、日中の労働倫理、対人関係に関する先行研究をまとめた。日本の企業で働いているある中国人女性に対するインタビューを2回行い、出産を経て職場復帰した外国人女性が職場で直面している困難や心理状態などを中心に調査を行った。
 金子国際文化交流財団の奨学金を頂いたのは去年(2020年)4月で、ちょうど日本でコロナが始まったところである。アルバイトができなくなり、生活で支障を来たしたが、財団の支援のおかげで、予定通りに研究を進めることができた。コロナで寂しい一年であったが、毎回財団からの温かい言葉を読むと癒され、励まされ、また元気になった。奨学生として選ばれ、心より感謝を申し上げたい。

 

(事務局 奥沢文子) この度のオリンピック関連で男性中心の日本社会から真の男女平等社会への変革を世界中から突き付けられている現在、その渦中にいる就労者の生の声は重要だと思います。

 

パン ユエさんの研究内容の紹介 2020.8月

製品のユーザー・エクスペリエンスにおける匂いの役割と効果

令和元年度(2019年度)奨学生
潘越(パン ユエ)さん
千葉大学大学院 融合理工学府創成工学専攻 
博士後期課程3年(2020年8月現在) 

 嗅覚は化学感覚であり、人間の感情や記憶と特別なつながりがあると考えられている。人においても嗅覚からの刺激は視覚など他の感覚刺激と比較して「本能的・感情的・嗜好的」であり、さまざまな心理的・生理的変化を引き起こすことが指摘されている。近年、「センサリー・マーケティング」や「香りプロダクト」など、嗅覚と匂いの応用が広がりつつある一方、匂いが製品のユーザー・エクスペリエンスにおける役割と効果は、ほかの感覚みたいに、デザイン研究者に重視されていなく、まだ十分検討されていない。
 その現状を踏まえて、本研究はシンプルだけど視覚、触覚、聴覚を含む多感覚製品であるオレンジ型のレゴブロック(積み木)を研究対象として実験を行った。
 被験者を「オレンジ・グループ」、「ミント・グループ」、「無臭のコントロール・グループ」に分けて、三つのグループの被験者にレゴブロックを組み立て始める前に、それぞれ「スイート・オレンジの匂い」、「ペッパーミントの匂い」及び「無臭」を嗅いでもらった。
 結果では、「スイート・オレンジの香り」は被験者から最も好まれていて、その香りが引き起こした被験者のレゴブロックに対するイメージや期待がそのオレンジ型のレゴブロックのイメージに一番近かった。それに、「スイート・オレンジの香り」は香りを嗅いだ直後の被験者に疲労を軽減する効果があった。「ペッパーミントの香り」は、レゴブロックを組み立てるタスクが被験者にもたらした緊張を緩和し、被験者の活力を維持する効果が見られた。しかし、どちらの香りも、被験者がオレンジ型レゴブロックに対する好み評価と製品体験評価には、顕著な影響を与えなかった。
 一つの原因は「感覚支配(Sensory Dominance)」という現象かもしれない。多感覚製品のエクスペリエンスにおいては、各感覚が全体的な製品体験への貢献度が同じであるわけではない。本実験で使用されたレゴブロックは、色が鮮やかで、脳力と手作業が同時に必要であり、実験設定下のタスクでは注意力が必要だった。匂いがあっても、それらの要素がもたらした被験者の製品体験評価に勝てなかった。
 では、もし実験で使用したのはオレンジ型のレゴブロックではなく、実際のオレンジであれば、被験者がオレンジを食べる時にオレンジまたは別の匂いを嗅ぐとすると、きっと本実験と違う結果が見られるでしょう。そのとおり、製品やもののタイプによって、匂いの役割と効果が異なる。一体どんな役割であるか、それに製品によってどんな差があるか、それを探るには、さらなる調査と研究が必要である。

 

(事務局 奥沢文子) 私たちは日常的に物を購入する際、その物の香りにより意思決定する場面が多々あります。潘さんはまさに製品とその匂いとの関係性を研究しているのですね。

 

チョウ リリさんの研究内容の紹介 2020.8月

常温環境下での温水浴が体温調節機能に及ぼす影響

張黎栗さん写真令和元年度(2019年度)奨学生
張黎栗(チョウ リリ)さん
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科 
博士後期課程2年
(2020年8月現在)

奨学金の受給は、博士課程1年の時であり、博士の研究に取り組む期間にあった。貴財団奨学金のお陰様で研究に集中できるようになった。
 奨学生として採用になった後、開催された日光旅行で他国出身の留学生との交流を実現し、視野を広げることができた。
私の研究テーマは、常温環境下での温水浴が体温調節機能に及ぼす影響である。本研究では、酷暑が予想される東京オリンピックで競技を行うアスリートに向けた暑熱馴化トレーニングの効果について、科学的エビデンスを提供することができる。特に、試合前にトレーニング負荷を低減し、体力を回復されるために、最適な暑熱馴化トレーニングを検討することが重要となる。また、温水浴は特別な施設や高価な材料を必要としないため、空調設備の整っていないチームやスポ−ツ現場にも応用できる。そのため、より多くの人が環境に左右されることなく、安全にスポーツパフォーマンスの向上に向け、トレーニングおよび試合に取り組むことができることから、本研究はスポーツ振興のための一助となると考える。
 先行研究では、暑熱環境下での運動は熱痙攣、熱失神、熱疲労および熱射病などの様々な熱関連障害を生じさせるまた、運動時の過度な体温上昇は、熱中症に加えて運動パフォーマンスの低下を引き起こすことが報告されている。この状況を改善するために、様々な暑熱馴化トレーニング法が研究されてきた。暑熱馴化トレーニング(HA)における運動能力の改善効果は、体温の低下、発汗速度の増加、生理的指標の改善および汗の電解質濃度の低下によってもたらされる。
しかし、温水浴のみのプロトコルは暑熱馴化に有効であるか否かについてまだ研究されていない。一般的に、暑熱馴化には、直腸温および皮膚温を上昇させることが必要であると考えられているため、入浴のみでも効果が得られる可能性がある。
そこで、本研究では、温水浴が暑熱馴化に及ぼす影響を検討すること目的とする。

 

(事務局 奥沢文子) 近年、私のような素人にも「スポーツ科学」なるものの意義が高まっていることをヒシヒシと感じています。張さんの研究がすすめばアスリートだけでなく、一般のスポーツ愛好家たちの健康の為にも役立つのではないでしょうか。

 

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